【結論】
- 子どもが「別に」としか言わないのは、話す意欲ではなく話せる環境と仕組みが整っていないから
- 今日できること:帰宅後に「質問タイム」を設けず、リラックスできる”無言OK時間”を10分確保する
- 得られる変化:会話を強制しない環境が整うと、子どもは自分のタイミングで「あのね」と話し始めるようになる
なぜ子どもは話さないのか──行動科学から見た”摩擦”
「今日、学校どうだった?」
この質問が返ってこないとき、多くの保護者は「うちの子、話す力が足りないのかも」と心配します。
でも実は、話せないのではなく、話すための”摩擦”が大きすぎる状態なのです。
行動科学では、人が行動を起こすには**「動機」「能力」「きっかけ」の3つが揃う必要がある**とされています(フォッグ行動モデル)。
子どもの場合:
- 動機:親に話したい気持ちはある
- 能力:でも記憶を整理して言語化する力はまだ発達途上
- きっかけ:帰宅直後の質問は、疲れた状態で高度な処理を求められるため「摩擦が大きすぎる」
つまり、話す能力を育てる前に、まず話しやすい環境を整えることが先決なのです。

会話が生まれる”環境デザイン”チェックリスト
以下の項目を、ご家庭の状況に合わせて確認してみてください。
✓ 物理的環境
- 帰宅後、子どもが一人になれる/ほっとできる場所がある
- テレビやゲームなど、気が散る刺激源を一時的にオフにできる
- 親子が並んで座れる、または視線が直接合わない配置がある(車内、キッチン横など)
✓ 時間的環境
- 帰宅後30分は、質問を控える”無圧力タイム”を設けている
- 夕食準備や宿題など、次のタスクまでに余白時間がある
- 親自身が、子どもの話を「聞く余裕」を持てる時間帯を設定している
✓ 心理的環境
- 「話さなくてもOK」というメッセージが暗黙に伝わっている
- 話したときに「すぐ解決されない」「怒られない」安全感がある
- 親が先に自分の話をして、「こういう話でいいんだ」というモデルを見せている
✓ 感覚的環境
- 子どもが落ち着く感覚刺激(お茶、おやつ、お風呂など)を取り入れている
- 聴覚過敏がある場合、静かな場所や時間帯を選んでいる
- 触覚が安心材料になる子には、ぬいぐるみやクッションを側に置いている
会話を”仕組み化”する3つのテンプレート
環境が整ったら、次は会話が自然に生まれる仕組みをつくります。
1. 固定ルーティンで”話すタイミング”をパターン化
「夕食後のお風呂タイムに、今日の話をする」 「寝る前の布団の中で、1日を振り返る」
このように、場所×時間を固定することで、子どもの脳は「このタイミングで話すんだ」と学習します。
ポイントは、親が質問しなくても、子どもが自分から話し出す”間”を用意すること。
2. 可視化ツールで記憶の整理を補助
言葉だけで「今日どうだった?」と聞かれても、子どもの脳は情報を整理できません。
そこで、視覚的な手がかりを用意します:
- 学校の時間割表を見ながら「この時間、何してた?」
- 「楽しさメーター」(1〜10のスケール)で気持ちを数値化
- 写真や絵カードで「今日あったこと」を選んでもらう
視覚情報があると、記憶を引き出すハードルが下がります。
3. 家庭内ロール分担で”聞き役”を変える
いつも同じ人(母親など)が聞くと、子どもも「またこのパターン」と身構えてしまいます。
聞く人・場所・タイミングを変えることで、新鮮さが生まれます:
- 月・水・金はパパが聞く
- 火・木はおばあちゃんとビデオ通話で話す
- 土日は兄弟姉妹同士で「今週の1番」を発表し合う
よくある失敗パターンと改善ポイント
NG:帰宅直後に玄関で「今日どうだった?」
→ 改善:帰宅後15分は「おかえり」だけで、手洗い・着替え・おやつの時間を確保する。その後、リラックスしたタイミングで自然に会話を始める。
NG:「話してくれないなら聞かない」と距離を置く
→ 改善:話さなくても、親が先に自分の話をする。「ママ今日ね、○○だったんだよ」と一方的でもOK。話す”モデル”を見せることが大事。
NG:週に1回、まとめて「今週どうだった?」
→ 改善:記憶が薄れる前に、当日か翌日に軽く触れる仕組みを。毎日でなくても、週3回程度の頻度で十分。
NG:「ちゃんと話して」と求める
→ 改善:「1個だけ教えて」「これとこれ、どっちが楽しかった?」など、答えるハードルを下げる選択肢を用意する。
個々の特性による”設定値”調整
子どもの特性によって、環境の最適設定は変わります。以下を参考に、微調整してください。
感覚過敏傾向が強い子
- 静かな場所・時間帯を選ぶ
- 視覚刺激(テレビ、スマホ)を減らす
- 触覚が落ち着く素材(毛布、クッション)を用意
疲れやすい・エネルギー切れしやすい子
- 帰宅後30分〜1時間は完全休息タイム
- 話すタイミングを「お風呂後」「寝る前」など、回復後に設定
- 1日1回、短時間(3分程度)で終わらせる
こだわりが強い・予測可能性を好む子
- 「毎日○時に話す」とルーティン化
- カレンダーやタイマーで視覚化
- 急な質問を避け、「あと5分したら今日の話、聞いてもいい?」と予告
注意が散りやすい子
- 動きながら話せる環境(散歩、ボール遊び)
- 短い質問を1つずつ
- メモやホワイトボードで視覚的に整理しながら
【5分スターター】今日からできる最小の一歩
全部を完璧にやる必要はありません。まずはこの中から1つ、試してみてください。
- 帰宅後10分間、質問しない──子どもが自分のペースで落ち着く時間を確保する
- 親が先に話す──「今日ママね、○○だったんだよ」と一方通行でもOK。話す”型”を見せる
- 「1個だけ教えて」と範囲を絞る──「全部教えて」より圧倒的に答えやすい
- 話す場所を変える──リビングではなく、お風呂・寝室・車の中など、リラックスできる場所で
- 「話してくれてありがとう」で終わる──「もっと教えて」と要求を重ねず、そこで完結させる

会話は”育てる”ものではなく、”生まれる環境”をつくるもの
子どもが話さないとき、「話す力を育てなきゃ」と焦る気持ちはよくわかります。
でも、会話は教えて身につくスキルではなく、安心できる環境があれば自然に生まれるものです。
摩擦を減らし、仕組みを整え、タイミングを待つ。
それだけで、子どもは必ず話し始めます。
「別に」が「あのね」に変わる日は、必ず来ます。
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『「学校どうだった?」→「別に」しか返ってこない。わが子が学校の話をしてくれないのはなぜ?』
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