結論
★「触っちゃダメ」と何度言っても手が伸びるのは、意志の弱さではなく環境設計の問題です。
★今日できる最小アクション:水槽の位置を変える、触る前の動線に”ワンクッション”を置く。
★得られる変化:叱る回数が減り、子どもが自分で行動を選べるようになります。
なぜ「わかっているのに止められない」のか―行動科学の視点
子どもが「触っちゃダメ」と理解していても手を伸ばしてしまうのは、脳の仕組み上、ごく自然なことです。
幼児期の脳は、目の前の刺激に強く引っ張られる構造になっています。これを「実行機能の未熟さ」と呼びます。実行機能とは、衝動を抑えたり、計画を立てたりする脳の働きのこと。大人でも疲れているとつい余計なものを買ってしまうように、子どもは常にこの状態にあるのです。
ここで大切なのは、「我慢させる」のではなく「我慢しなくていい環境」をつくることです。
行動科学では、人の行動は「動機×能力×きっかけ」で決まるとされています。どれだけ「触るな」と伝えても(動機)、目の前に刺激がある限り(きっかけ)、衝動は発動します。だからこそ、物理的な環境を変えることが最も効果的なのです。

環境デザインチェックリスト―摩擦を下げる5つの視点
子どもが「触らない選択」をしやすくするために、以下の視点で環境を見直してみましょう。
物理的配置
- 水槽は手の届かない高さに設置されているか
- 踏み台や椅子が近くにないか
- 水槽の前に立つまでの動線に”ワンクッション”があるか(例:ゲート、マット)
視覚的リマインダー
- 水槽の横に「見るだけ」のイラストやシールが貼られているか
- ルールが一目でわかる視覚支援ツールがあるか
- タイマーや時計など、時間の見える化ができているか
代替刺激の用意
- 触りたい欲求を満たせる場所が別に用意されているか(お風呂、水遊びコーナー)
- 手に持てる感触グッズ(スクイーズ、布など)が近くにあるか
前後の動線設計
- 水槽を見る前に「約束の確認」をするタイミングがあるか
- 見終わった後の次の行動が決まっているか(見たら手を洗う、おやつを食べるなど)
時間帯・状態への配慮
- 疲れている時間帯、空腹時を避けているか
- 刺激が多い環境(騒がしい、人が多い)を避けているか
仕組み化テンプレート―ルーティンで行動を固定する
環境を整えたら、次は「流れ」を固定します。毎回同じパターンにすることで、子どもは予測でき、衝動をコントロールしやすくなります。
固定ルーティンの例
- 水槽を見る時間を決める(例:朝ごはんの後、寝る前)
- 見る前に必ず「約束タイム」を設ける(5秒でOK)
- タイマーをセットして見る(3分など短時間)
- 終わったら次の行動へ移行(手を洗う、絵本を読むなど)
可視化ツールの活用
- タイマー:見る時間の終わりを視覚化
- カード:「見る」「触らない」のイラストカード
- 予告写真:次の行動の写真を見せて切り替えをスムーズに
- シールカード:触らずに見られた日にシールを貼る
家庭内ロール分担
- 誰が約束の確認をするか
- 誰がタイマーをセットするか
- 誰が次の行動へ誘導するか
役割を決めておくことで、家族全員が一貫した対応をしやすくなります。
よくある失敗 → 改善ポイント
環境設計でよくあるつまずきと、その改善策をご紹介します。
NG:水槽をリビングの低い位置に置いたまま
理由:目線の高さにあると、刺激が強すぎて衝動が抑えられません。
OK:水槽を高い位置に移動する、または透明なアクリル板で物理的に距離をつくる。
NG:「ダメ」と言うだけで環境は変えない
理由:言葉だけでは、脳の仕組み上、衝動は止まりません。
OK:環境を変える、物理的に触れない状況をつくる。
NG:毎回違うタイミング、違う声かけで対応
理由:パターンが固定されていないと、子どもは予測できず不安定になります。
OK:同じ流れ、同じタイミングでルーティン化する。
NG:代替刺激を用意していない
理由:欲求を禁止するだけでは、別の場面で爆発します。
OK:触れる体験を別の場所・時間に組み込む。
NG:疲れているときも同じように対応
理由:疲労時は実行機能が低下し、衝動が抑えられなくなります。
OK:疲れているときは水槽を見ない、または短時間にする。
特性による”設定値”調整―子どもに合わせた環境パラメータ
すべての子どもに同じ環境が合うわけではありません。特性に応じて、環境の「強度」を調整しましょう。
感覚探求型の子ども
触覚刺激を強く求めるタイプ。我慢ではなく、代替刺激を豊富に用意することが最優先です。
- 水遊び、粘土、スクイーズなど触れる体験を日常に組み込む
- 水槽を見る前に、手を使う遊びで欲求を満たしておく
衝動性が高い子ども
目の前の刺激に瞬時に反応してしまうタイプ。物理的な距離と、視覚的リマインダーが有効です。
- 水槽を完全に手の届かない高さに設置
- 水槽の前に立つまでの動線を長くする(例:ゲートを設置)
ASD傾向がある子ども
ルーチンや視覚情報に強いタイプ。パターン化と視覚支援が効果的です。
- 毎日同じ時間、同じ手順で見る
- イラストカードで「見る」「触らない」を明確化
疲れやすい子ども
エネルギー量が少なく、すぐに実行機能が低下するタイプ。タイミングと時間の調整が重要です。
- 疲れる前の時間帯に見る
- 短時間(1〜2分)に設定
5分スターターキット――今日できる最小の一歩
環境設計は大がかりに思えますが、小さな一歩から始められます。以下のうち、ひとつだけ選んで試してみてください。
- 水槽の位置を10cm高くする
- 水槽の横に「見るだけ」のシールを貼る
- タイマーを用意して、3分だけ見る練習をする
- お風呂に魚のおもちゃを浮かべる
- 見る前に「手はポケットね」と具体的に伝える
完璧を目指さなくて大丈夫。ひとつ変えるだけで、確実に何かが動き始めます。
まとめ―環境を変えれば、叱る回数が減る
「触っちゃダメ」と繰り返す日々は、保護者にとっても子どもにとってもつらいものです。でも、それは誰かが悪いわけではありません。環境が整っていないだけなのです。
物理的な配置を変える、ルーティンを固定する、代替刺激を用意する。この3つを意識するだけで、衝動は格段にコントロールしやすくなります。
子どもの行動を変えようとするのではなく、環境を変える。それが、行動科学が教えてくれる最もシンプルで効果的な方法です。
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