結論
問題の本質:
「話せない=伝えられない」ではなく、「伝える手段がまだ見つかっていない」だけ
今日できる最小アクション:
身の回りにある写真・絵カード・スマホアプリを使って、1つだけ「選べる環境」を作る
得られる変化のイメージ:
本人が「伝わった」を実感し、癇癪や受け身が減り、主体的に選ぶ場面が増えていく
拡大・代替コミュニケーション(AAC)とは?わかりやすく例えると
AAC(Augmentative and Alternative Communication)とは、音声による会話が難しい人が、他の方法で自分の気持ちや意思を伝えるためのすべての手段を指します。
たとえば私たちも、騒がしい場所ではジェスチャーを使ったり、外国で指差しやスマホ翻訳を使ったりします。AACは、それを日常的に・計画的に・環境として整える取り組みです。

AACの主な種類
- ローテク(道具不要・簡易)
ジェスチャー、視線、絵カード、写真カード、コミュニケーションボード - ミドルテク(電池不要の道具)
VOCA(音声出力装置)、スイッチ、ビッグマックなどのシンプルな録音装置 - ハイテク(デジタル機器)
タブレット用AAC アプリ(DropTalk、VOCA、えこみゅなど)、音声合成装置
大切なのは、「高度な道具=優れている」ではないということ。本人が使いやすく、周囲が無理なく続けられる手段が、その子にとっての最適解です。
行動科学の視点:なぜ「伝える行動」が生まれにくいのか
人は、行動した結果に報酬があると、その行動を繰り返します。しかし音声でのやりとりが難しい場合、次のような摩擦が生じます。
- 「何かを伝えたい」と思っても、手段がない
- 手段があっても、相手に届かない・理解されない
- 伝わらない経験が重なると、「どうせ伝わらない」という学習性無力感が育つ
結果として、癇癪や他害、あるいは極端な受け身が生まれます。これは「伝える回路が未整備」なだけであり、本人の意欲や知能の問題ではありません。
AAC導入とは、「伝える→伝わる→もっと伝えたくなる」の回路を、環境として設計することです。
AAC導入の環境デザイン:物理的な摩擦を下げるチェックリスト
✓ 視覚的なアクセス
- カードやツールは、本人の目線の高さ・手の届く場所にあるか
- 選択肢は2〜3個から始め、混乱を防げているか
- 背景が雑然としておらず、選ぶ対象が明確に見えるか
✓ 時間的なタイミング
- 急いでいる場面ではなく、余裕のある時間帯に導入しているか
- 本人が「伝えたい」気持ちが高まる場面(おやつ・遊び)で試しているか
✓ 周囲の対応準備
- 家族・支援者が、ツールの意味と使い方を共通理解しているか
- 「伝えようとした瞬間」を見逃さず、即座に応答できる体制があるか
AAC導入の仕組み化テンプレート
① 固定ルーティン
- 朝のおやつタイムに「バナナ/ヨーグルト」の写真カードで選ぶ
- お風呂上がりに「パジャマ選び」を絵カードで示す
- 遊びの終わりに「次は何?」を視覚的に提示する
② 可視化ツールの定位置化
- コミュニケーションボードは壁の同じ場所に掲示
- カードは透明ケースに入れ、本人が自分で取り出せる
- タブレットは充電済み・起動済みで、使いたい時にすぐ使える
③ 家庭内ロール分担
- 母:朝の選択場面でカード提示
- 父:夕食後の遊びの選択でアプリ起動サポート
- きょうだい:一緒にカードを選ぶ遊びに参加
こうした「いつ・どこで・誰が・何を使うか」の固定化が、本人にとっての安心と、周囲にとっての持続可能性を生みます。
よくある失敗 → 環境・設計視点での改善ポイント
❌ NG:
カードを作ったが、引き出しの奥にしまってある
⭕ OK:
壁に掲示、または透明ケースに入れて本人の手の届く場所に常設
❌ NG:
10種類のカードを一度に提示し、本人が混乱
⭕ OK:
2〜3枚から始め、慣れたら少しずつ増やす
❌ NG:
本人が指差した後、大人が気づかず、伝わらない経験に
⭕ OK:
「伝えようとした瞬間」を見逃さない観察と、即座のフィードバック体制
個々の特性による”設定値”調整
AACは、一律のマニュアルではなく環境パラメータの調整が必要です。
感覚過敏がある場合
- 音声出力装置の音量を下げる、または消音モードを用意
- カードの素材(ラミネート、厚紙、布など)を本人が触れやすいものに
こだわりが強い場合
- カードの配置順序を固定し、変更は少しずつ
- 「いつもの流れ」を崩さず、AAC使用を組み込む
疲れやすい・集中が短い場合
- 1回の選択は1〜2分以内で完結させる
- 選択場面は1日1〜2回から、無理なく習慣化
AAC導入の5分スターター:今日からできる最小の一歩
- おやつ2種類の写真を撮る
スマホで撮影→印刷、または画面に2つ並べる - 「どっちにする?」と見せて、指差しや視線を待つ
選んだ瞬間に、すぐそれを渡す - 写真を壁やテーブルの定位置に置く
毎日同じ場所で、同じ時間に選ぶ習慣を作る - 家族に「このカード、〇〇ちゃんが選ぶ時に使うね」と共有
全員が同じ対応をすることで、本人の学習が進む - 1週間続けて、「伝わった」瞬間を1つでも見つける
表情・視線・体の動きの変化を観察する
まとめ:AACは「特別な訓練」ではなく、環境の再設計
AAC導入は、「伝える」という行動が生まれやすい環境を整えることです。
道具の種類や高度さではなく、本人にとって「使える・伝わる・続けたくなる」設計が鍵になります。
まずは2択の写真カードや、スマホの画像提示から。小さな「伝わった」の積み重ねが、本人の主体性と、家族の安心を育てていきます。
コメント