結論
- 親戚の家で挨拶ができないのは、「環境の不確実性」と「行動手順の不明確さ」が原因。
- 事前の環境情報提供と、挨拶を”手順化”することで行動のハードルは下がる。
- 今日から始められるのは、到着前の「視覚的予告」と「1アクションだけの約束」。
なぜ子どもは親戚の家で挨拶ができないのか:行動科学の視点
脳は「不確実性」を避けようとする
人間の脳は、予測できない状況に対して警戒モードに入ります。特に子どもの場合、この反応は顕著です。
親戚の家という環境は、子どもにとって「不確実性の塊」です。
- いつもと違う匂い、音、光の加減
- 誰がどこにいるか分からない
- 何をすればいいか、どう動けばいいかが不明確
- 次に何が起こるか予測できない
この状態では、脳の「実行系」と呼ばれる、計画を立てて行動する機能がうまく働きません。
挨拶という社会的行動は、複数のステップを踏む必要があります。
- 状況を認識する(今、挨拶すべき場面だ)
- 行動を計画する(こんにちは、と言おう)
- 他の欲求を抑える(ゲームがしたいけど、後で)
- 実際に体を動かす(声を出す、お辞儀する)
不確実性が高い環境では、この一連のプロセスが崩れます。
結果として、子どもは「確実にコントロールできるもの」、つまりゲーム機や玩具を探す行動に流れてしまうのです。
行動の「摩擦」が大きすぎる
行動経済学の世界では、「行動の摩擦」という概念があります。
ある行動を起こすまでの”面倒くささ”や”不安”が大きいほど、人はその行動を避けます。
挨拶という行動の摩擦要因:
- いつやればいいか分からない(タイミングの不明確さ)
- 誰に向かってやればいいか分からない(対象の不明確さ)
- どうやればいいか分からない(手順の不明確さ)
- やった結果どうなるか分からない(結果の不確実性)
一方、ゲームを探す行動の摩擦は低い:
- 目的が明確(ゲーム機を見つける)
- 手順がシンプル(探して、触る)
- 結果が予測可能(楽しい時間が待っている)
つまり、挨拶ができないのは「マナーを知らない」のではなく、「行動の摩擦が大きすぎて実行できない」状態なのです。

環境デザイン:挨拶を”起こりやすく”する仕組み
行動を変えるには、本人の意志や努力ではなく、「環境」を変えることが最も効果的です。
到着前の環境情報提供
□ 親戚の家の写真を見せる(玄関、リビング、トイレの場所) □ 誰がいるかを伝える(おばあちゃん、おじいちゃん、いとこ) □ 滞在時間の目安を伝える(お昼ご飯を食べたら帰るよ) □ 家のルールを1つだけ伝える(靴は揃える、など)
これらは「認知的な地図」を子どもの頭の中に作る作業です。地図があれば、不安は減ります。
挨拶の手順を”1アクション化”する
□ 挨拶のタイミングを固定する(玄関に入ったら) □ 挨拶の形を決める(手を振る/お辞儀する/言葉を言う、のどれか1つ) □ 挨拶する相手を明確にする(まずおばあちゃんだけ) □ 挨拶後の流れを予告する(挨拶したら、ゲームの場所を教えてもらえる)
複雑な行動は、シンプルな1アクションに分解します。
視覚的な手がかりを配置する
□ 挨拶カードを持たせる(「あけましておめでとうございます」と書いた紙) □ 到着前にイラストで手順を見せる(玄関→挨拶→ゲーム) □ 親がモデルになる(親が先に挨拶する姿を見せる)
視覚情報は、言葉よりも脳に入りやすく、記憶にも残ります。
仕組み化テンプレート:どんな場面でも使える3つの型
1. 固定ルーティンを作る
毎回同じパターンにすることで、予測可能性が上がります。
- 車を降りる → 深呼吸1回 → 玄関に入る → 立ち止まる → 挨拶
- このパターンを3回繰り返すと、体が覚えます
2. 可視化ツールを活用する
抽象的な「挨拶しよう」ではなく、目で見える形にします。
- タイマー:「あと5分で着くよ」と時間を可視化
- カード:挨拶の言葉を書いた紙を持たせる
- 予告写真:親戚の家の玄関の写真を車内で見せる
3. 家庭内ロール分担
誰が何をするかを明確にすると、親も子も動きやすくなります。
- パパ:到着前に予告する役
- ママ:玄関でモデルを見せる役
- 子ども:手を振る、またはカードを渡す役
役割が決まっていると、「次は自分の番」という意識が生まれます。
よくある失敗と改善ポイント(環境設計の視点)
NG:到着してから「ほら、挨拶は?」と声をかける
改善:到着10分前に「玄関に入ったら、まず止まって、手を振ろうね」と予告する
理由:事前予告がないと、子どもは心の準備ができていません。突然の指示は、脳にとって「不意打ち」です。
NG:挨拶ができるまで、その場で待ち続ける
改善:「今日は手を振るだけでOK」とハードルを下げる、または親が先に挨拶して流れを作る
理由:プレッシャーが高まると、さらに固まってしまいます。行動の摩擦を下げることが優先です。
NG:「なんで挨拶できないの!」とその場で叱る
改善:帰宅後に「次はこうしてみようか」と、環境調整の視点で振り返る
理由:叱責は、「親戚の家=嫌な場所」という記憶を作ります。次回の抵抗感が増します。
NG:挨拶しないとゲームは禁止、と長時間制限する
改善:「挨拶→ゲーム」という順序を明確にし、挨拶が済んだらすぐに許可する
理由:罰は行動を減らしますが、新しい行動は教えません。順序を示すことで、行動の道筋が見えます。
個々の特性による環境パラメータ調整
子どもの特性によって、環境設定の”強度”を変える必要があります。
感覚過敏が強い子
- パラメータ:環境刺激の調整
- 調整方法:到着後すぐに挨拶を求めず、3〜5分の「慣れ時間」を確保する/静かな部屋の場所を事前に確認しておく
注意が逸れやすい子
- パラメータ:注意の誘導
- 調整方法:玄関に入る直前に肩に手を置いて「ストップ」の合図/挨拶を”ミッション”としてゲーム化する
見通しが立ちにくい子
- パラメータ:予測可能性の強化
- 調整方法:写真やイラストで視覚的に予告する/「挨拶→ゲーム→ご飯→帰る」という全体の流れを紙に書いて見せる
こだわりが強い子
- パラメータ:行動パターンの固定化
- 調整方法:毎回同じ挨拶の型(手を振る、お辞儀する)に統一する/挨拶する場所を固定する(玄関のこの位置、など)
特性は、設定を変えるべき”変数”として捉えます。正解は一つではなく、その子に合わせて調整するものです。
5分スターター:今日すぐできる最小の一歩
今日から始められる、準備時間5分以内のアクションです。
- スマホで親戚の家の玄関写真を撮る(または以前の写真を探す) → 次回、車内で子どもに見せる
- 紙に「①こんにちは」「②ゲーム」とイラストで描く → 到着前に見せて、流れを予告する
- 「玄関に入ったら、まず手を振る」という1つのルールを決める → 子どもに伝え、親も一緒にやると約束する
- 親戚に事前連絡をする → 「挨拶できたら、すぐに褒めてもらえますか?」と協力を依頼
- 帰宅後の振り返りを3分だけする → 「今日、手を振れたね」と、できたことだけ伝える
どれか1つでも実行すれば、次回の成功率は確実に上がります。
まとめ:環境を変えれば、行動は変わる
挨拶ができないのは、子どもの「やる気」や「マナー意識」の問題ではありません。
環境の不確実性と、行動の摩擦が大きすぎることが原因です。
私たち大人ができるのは、その摩擦を下げること。
- 事前に情報を提供する
- 行動を1アクションに分解する
- 視覚的な手がかりを用意する
- 固定ルーティンを作る
これらは、すべて「環境のデザイン」です。
環境を整えれば、子どもは自然と動けるようになります。
そして、一度「できた」という経験ができれば、次はもっと楽になります。
今日から、まず1つだけ環境を変えてみてください。
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