親戚の家で挨拶できない子ども|環境と仕組みで変わる行動設計のコツ

目次

結論

  • 親戚の家で挨拶ができないのは、「環境の不確実性」と「行動手順の不明確さ」が原因。
  • 事前の環境情報提供と、挨拶を”手順化”することで行動のハードルは下がる。
  • 今日から始められるのは、到着前の「視覚的予告」と「1アクションだけの約束」。

なぜ子どもは親戚の家で挨拶ができないのか:行動科学の視点

脳は「不確実性」を避けようとする

人間の脳は、予測できない状況に対して警戒モードに入ります。特に子どもの場合、この反応は顕著です。

親戚の家という環境は、子どもにとって「不確実性の塊」です。

  • いつもと違う匂い、音、光の加減
  • 誰がどこにいるか分からない
  • 何をすればいいか、どう動けばいいかが不明確
  • 次に何が起こるか予測できない

この状態では、脳の「実行系」と呼ばれる、計画を立てて行動する機能がうまく働きません。

挨拶という社会的行動は、複数のステップを踏む必要があります。

  1. 状況を認識する(今、挨拶すべき場面だ)
  2. 行動を計画する(こんにちは、と言おう)
  3. 他の欲求を抑える(ゲームがしたいけど、後で)
  4. 実際に体を動かす(声を出す、お辞儀する)

不確実性が高い環境では、この一連のプロセスが崩れます。

結果として、子どもは「確実にコントロールできるもの」、つまりゲーム機や玩具を探す行動に流れてしまうのです。

行動の「摩擦」が大きすぎる

行動経済学の世界では、「行動の摩擦」という概念があります。

ある行動を起こすまでの”面倒くささ”や”不安”が大きいほど、人はその行動を避けます。

挨拶という行動の摩擦要因:

  • いつやればいいか分からない(タイミングの不明確さ)
  • 誰に向かってやればいいか分からない(対象の不明確さ)
  • どうやればいいか分からない(手順の不明確さ)
  • やった結果どうなるか分からない(結果の不確実性)

一方、ゲームを探す行動の摩擦は低い:

  • 目的が明確(ゲーム機を見つける)
  • 手順がシンプル(探して、触る)
  • 結果が予測可能(楽しい時間が待っている)

つまり、挨拶ができないのは「マナーを知らない」のではなく、「行動の摩擦が大きすぎて実行できない」状態なのです。

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環境デザイン:挨拶を”起こりやすく”する仕組み

行動を変えるには、本人の意志や努力ではなく、「環境」を変えることが最も効果的です。

到着前の環境情報提供

□ 親戚の家の写真を見せる(玄関、リビング、トイレの場所) □ 誰がいるかを伝える(おばあちゃん、おじいちゃん、いとこ) □ 滞在時間の目安を伝える(お昼ご飯を食べたら帰るよ) □ 家のルールを1つだけ伝える(靴は揃える、など)

これらは「認知的な地図」を子どもの頭の中に作る作業です。地図があれば、不安は減ります。

挨拶の手順を”1アクション化”する

□ 挨拶のタイミングを固定する(玄関に入ったら) □ 挨拶の形を決める(手を振る/お辞儀する/言葉を言う、のどれか1つ) □ 挨拶する相手を明確にする(まずおばあちゃんだけ) □ 挨拶後の流れを予告する(挨拶したら、ゲームの場所を教えてもらえる)

複雑な行動は、シンプルな1アクションに分解します。

視覚的な手がかりを配置する

□ 挨拶カードを持たせる(「あけましておめでとうございます」と書いた紙) □ 到着前にイラストで手順を見せる(玄関→挨拶→ゲーム) □ 親がモデルになる(親が先に挨拶する姿を見せる)

視覚情報は、言葉よりも脳に入りやすく、記憶にも残ります。


仕組み化テンプレート:どんな場面でも使える3つの型

1. 固定ルーティンを作る

毎回同じパターンにすることで、予測可能性が上がります。

  • 車を降りる → 深呼吸1回 → 玄関に入る → 立ち止まる → 挨拶
  • このパターンを3回繰り返すと、体が覚えます

2. 可視化ツールを活用する

抽象的な「挨拶しよう」ではなく、目で見える形にします。

  • タイマー:「あと5分で着くよ」と時間を可視化
  • カード:挨拶の言葉を書いた紙を持たせる
  • 予告写真:親戚の家の玄関の写真を車内で見せる

3. 家庭内ロール分担

誰が何をするかを明確にすると、親も子も動きやすくなります。

  • パパ:到着前に予告する役
  • ママ:玄関でモデルを見せる役
  • 子ども:手を振る、またはカードを渡す役

役割が決まっていると、「次は自分の番」という意識が生まれます。


よくある失敗と改善ポイント(環境設計の視点)

NG:到着してから「ほら、挨拶は?」と声をかける

改善:到着10分前に「玄関に入ったら、まず止まって、手を振ろうね」と予告する

理由:事前予告がないと、子どもは心の準備ができていません。突然の指示は、脳にとって「不意打ち」です。

NG:挨拶ができるまで、その場で待ち続ける

改善:「今日は手を振るだけでOK」とハードルを下げる、または親が先に挨拶して流れを作る

理由:プレッシャーが高まると、さらに固まってしまいます。行動の摩擦を下げることが優先です。

NG:「なんで挨拶できないの!」とその場で叱る

改善:帰宅後に「次はこうしてみようか」と、環境調整の視点で振り返る

理由:叱責は、「親戚の家=嫌な場所」という記憶を作ります。次回の抵抗感が増します。

NG:挨拶しないとゲームは禁止、と長時間制限する

改善:「挨拶→ゲーム」という順序を明確にし、挨拶が済んだらすぐに許可する

理由:罰は行動を減らしますが、新しい行動は教えません。順序を示すことで、行動の道筋が見えます。


個々の特性による環境パラメータ調整

子どもの特性によって、環境設定の”強度”を変える必要があります。

感覚過敏が強い子

  • パラメータ:環境刺激の調整
  • 調整方法:到着後すぐに挨拶を求めず、3〜5分の「慣れ時間」を確保する/静かな部屋の場所を事前に確認しておく

注意が逸れやすい子

  • パラメータ:注意の誘導
  • 調整方法:玄関に入る直前に肩に手を置いて「ストップ」の合図/挨拶を”ミッション”としてゲーム化する

見通しが立ちにくい子

  • パラメータ:予測可能性の強化
  • 調整方法:写真やイラストで視覚的に予告する/「挨拶→ゲーム→ご飯→帰る」という全体の流れを紙に書いて見せる

こだわりが強い子

  • パラメータ:行動パターンの固定化
  • 調整方法:毎回同じ挨拶の型(手を振る、お辞儀する)に統一する/挨拶する場所を固定する(玄関のこの位置、など)

特性は、設定を変えるべき”変数”として捉えます。正解は一つではなく、その子に合わせて調整するものです。


5分スターター:今日すぐできる最小の一歩

今日から始められる、準備時間5分以内のアクションです。

  1. スマホで親戚の家の玄関写真を撮る(または以前の写真を探す) → 次回、車内で子どもに見せる
  2. 紙に「①こんにちは」「②ゲーム」とイラストで描く → 到着前に見せて、流れを予告する
  3. 「玄関に入ったら、まず手を振る」という1つのルールを決める → 子どもに伝え、親も一緒にやると約束する
  4. 親戚に事前連絡をする → 「挨拶できたら、すぐに褒めてもらえますか?」と協力を依頼
  5. 帰宅後の振り返りを3分だけする → 「今日、手を振れたね」と、できたことだけ伝える

どれか1つでも実行すれば、次回の成功率は確実に上がります。


まとめ:環境を変えれば、行動は変わる

挨拶ができないのは、子どもの「やる気」や「マナー意識」の問題ではありません。

環境の不確実性と、行動の摩擦が大きすぎることが原因です。

私たち大人ができるのは、その摩擦を下げること。

  • 事前に情報を提供する
  • 行動を1アクションに分解する
  • 視覚的な手がかりを用意する
  • 固定ルーティンを作る

これらは、すべて「環境のデザイン」です。

環境を整えれば、子どもは自然と動けるようになります。

そして、一度「できた」という経験ができれば、次はもっと楽になります。

今日から、まず1つだけ環境を変えてみてください。


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この記事を書いた人

こんにちは、ゆうたまと申します。
長野県出身で、現在は放課後等デイサービスの児童発達支援管理責任者・管理者として、子どもたちの支援に携わっています。
また、週に一度は幼児向け運動教室を主宰し、発達に合わせた運動あそびを通して「できた!」「楽しい!」を引き出す活動をしています。

ブログでは、
「子どもへの関わり方」「運動あそびの工夫」「支援のアイデア」など、
保育士さんや放デイ職員、保護者の方に役立つ実践的な内容を中心に発信しています。

資格は、保育士・幼稚園教諭Ⅱ種・NESTAキッズコーディネーショントレーナー・かけっこアドバイザー・児童発達支援管理責任者など。
専門的な知識だけでなく、日々の現場で感じた気づきを丁寧に言葉にすることを大切にしています。

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