結論
問題の本質: 「理解する脳」と「実行する脳」は別の場所で働いている。ルールを知っていても、行動を起こす脳の機能(実行機能)が育っていなければ動けない。
今日できる最小アクション: 言葉で繰り返すのをやめて、1つの行動だけ「見える化」する(例:朝の支度の手順を写真で貼る)。
得られる変化: 子どもが「自分でできた」と感じる瞬間が増え、親子の衝突が減る。
なぜ「分かってるのにできない」のか?行動科学が教える脳の仕組み
「もう何度も言ったよね?」
「分かってるなら、なんでやらないの?」
保育や子育ての現場で、こんな言葉を口にしたことはありませんか?
実は、「分かる」と「できる」は、脳の中で全く別の働きをしています。

理解する脳と実行する脳は別物
- 理解する脳(側頭葉・頭頂葉):ルールや知識を記憶する「データベース」
- 実行する脳(前頭前野):行動を開始し、続け、調整する「司令塔」
「手を洗ってから食べる」というルールを覚えることと、実際に遊びを中断して手を洗いに行くことは、脳の中では全く異なる作業です。
しかも、実行する脳(実行機能)は20代まで発達し続けるため、幼児期・学童期の子どもはまだ「工事中」の状態。構造的に「分かっていてもできない」のです。
実行機能が弱ると何が起きる?
実行機能は以下のような場面で簡単に低下します:
- 疲れている、眠い
- 周囲がうるさい、人が多い
- 感情が高ぶっている(楽しい・悲しい・怒り)
- 目の前に魅力的な誘惑がある
つまり、「昨日はできたのに今日はできない」は当たり前。実行機能は固定されたスキルではなく、その日の状態で変動するのです。
行動の「摩擦」を減らす環境デザイン
「やる気」や「根性」に頼るのではなく、環境を整えることで、行動のハードルを下げる。これが実行機能支援の基本です。
物理的環境のチェックリスト
□ やるべきことに必要なものが、手の届く位置にあるか?
□ やってほしくないもの(誘惑)が、視界から隠れているか?
□ 動線上に、気が散る要素(おもちゃ・テレビ)がないか?
□ 静かすぎたり、騒がしすぎたりしないか?
前後動線の摩擦を下げる
行動の「前」と「後」をスムーズにすると、実行しやすくなります。
例:着替えの場合
- 前の摩擦:「どこに服があるか探す」→ 服を前日に出しておく
- 後の摩擦:「脱いだ服をどこに置くか迷う」→ 洗濯カゴを目立つ場所に
例:宿題の場合
- 前の摩擦:「何から始めるか考える」→ 教科書を開いた状態で机に置いておく
- 後の摩擦:「終わった後に何するか分からない」→ 「終わったらおやつ」と決めておく
感覚刺激の調整
実行機能が弱い子は、感覚刺激に脳のエネルギーを使いすぎて、行動に回す余裕がなくなります。
- うるさい環境 → 静かな部屋で取り組む
- 明るすぎる照明 → 間接照明に変える
- 椅子が合わない → 足置き台を使う
どのテーマでも使える「仕組み化テンプレート」
1. 固定ルーティン化
毎日同じ流れにすることで、「次は何だっけ?」と考える負担が減ります。
- 朝:起きる → トイレ → 着替え → 朝食 → 歯磨き
- 帰宅後:手洗い → おやつ → 宿題 → 自由時間
ポイント: 最初の2週間は一緒に確認。3週目から少しずつ見守りに移行。
2. 可視化ツール
「覚えておく」ことは、実行機能に大きな負担をかけます。外部に記憶を預けましょう。
- 手順表:イラストや写真で「次は何するか」を貼る
- タイマー:「あと○分」を視覚的に見せる
- チェックリスト:終わったら✓を入れる達成感
3. 家庭内ロール分担
「誰が何をするか」を明確にすることで、責任の所在がはっきりします。
- 朝の支度:子ども本人
- タイマーセット:保護者
- 手順表の確認:最初は一緒、慣れたら子ども
よくある失敗 → 環境・設計で改善
NG:「早くしなさい」を繰り返す
言葉だけでは、実行機能は動きません。むしろプレッシャーがストレスとなり、さらに動けなくなります。
OK:時間を見える化する
- 視覚タイマーを使う
- 「長い針が6になったら出発だよ」と具体的に示す
- 「あと5分」カードを見せる
NG:大きな指示を一度に出す
「片付けて、手を洗って、着替えて」は、ワーキングメモリの容量を超えています。
OK:1つずつ区切る
- 「まず、積み木を箱に入れよう」
- 終わったら「次は、絵本を棚に戻そう」
NG:できないことを叱る
叱責はストレスを生み、実行機能をさらに低下させます。
OK:できたプロセスを認める
- 「ここまでできたね」
- 「自分で気づけたね」
- 結果ではなく、途中の行動を評価する
個々の特性に応じた”設定値”調整
実行機能の育ちや特性は、一人ひとり違います。環境のパラメータを調整しましょう。
感覚過敏がある子
- 音に敏感 → イヤーマフやヘッドホンを用意
- 光に敏感 → 蛍光灯ではなく間接照明
- 触覚過敏 → 服のタグを切る、靴下の縫い目を裏返す
疲れやすい子
- 活動時間を短く区切る(10分集中→5分休憩)
- 午前中の早い時間に重要なタスクを配置
- 疲れる前に休憩を入れる「予防的休憩」
こだわりが強い子
- 予定変更は必ず事前予告(できれば前日)
- 「いつもの順番」を尊重しつつ、少しずつバリエーションを
- 「選択肢を2つ」提示して、自分で選ばせる
注意が散りやすい子
- 机の上には必要なものだけ
- 遊びコーナーが見えない位置で活動
- 静かな環境を優先
今日からできる5分スターター
1. 1つの行動だけ手順表を作る
朝の着替え、だけでOK。スマホで撮った写真を並べて貼るだけでも効果あり。
2. タイマーを1つ用意する
100円ショップの砂時計でも、スマホのアプリでも。「あと○分」を見える化。
3. 「できたね」を1日3回言う
結果ではなく、プロセス。「自分で気づけたね」「ここまで頑張ったね」。
4. 明日の朝の準備を夜にする
服を出す、カバンをチェックする。朝の摩擦を1つ減らす。
5. 子どもと「どうすればできそう?」を話す
一方的に決めず、子どもの意見を聞く。自己決定感が実行を後押しします。
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- 「分かっているけどできない」子どもの内面
- 実行機能が育つプロセス
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環境を整えれば、子どもは変わります。
言葉で伝え続けるのではなく、仕組みで支える。
その小さな一歩が、子どもの「できた!」を生み出します。
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