結論
問題の本質: ことばが出にくい子は「伝えたいのに手段がない」状態で、コミュニケーションの摩擦が大きすぎる
今日できる最小アクション: 子どもの好きなもの3つの写真を用意し、手の届く場所に置いてみる
得られる変化のイメージ: 「伝わった」成功体験が積み重なり、要求・感情表現の土台が育つ
PECS(ペクス)ってどんな意味?わかりやすく例えると
PECSとは、Picture Exchange Communication System(絵カード交換式コミュニケーションシステム)の略称です。
簡単に言うと、「ことばの代わりに絵カードを使って、自分から相手に伝える練習をする方法」です。
たとえるなら、「レストランで注文票を店員さんに渡す」ような仕組み。
子どもが「ジュースがほしい」と思ったとき、ジュースの絵カードを相手に手渡すことで、ことばを使わずに要求を伝えられます。
単なる「絵を見せる」ではなく、自発的に・相手に・カードを渡すという行動を通じて、コミュニケーションの基礎を育てていくのがPECSの特徴です。
PECSは誰に向いているの?
PECSは、以下のようなお子さんに特に有効とされています。
- ことばが出ていない、または少ない子
- 要求を泣く・癇癪で表現してしまう子
- 視覚的な情報の方が理解しやすい子
- 自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある子
年齢は幼児期から始めることが多いですが、小学生以降でも導入可能です。
また、「ことばを話せるようになったらPECSは不要」というわけではなく、ことばと併用しながら、表現の幅を広げる手段として使い続けることもできます。
PECSを始めるために必要なものは?
最初に用意するもの
- 子どもの好きなもの3〜5種類の写真または絵カード(お菓子・おもちゃ・動画など)
- カードを入れるコミュニケーションブック(ファイルやバインダーでOK)
- カードを貼るためのマジックテープ(剥がしやすく、繰り返し使える)
- 子どもの好きなもの実物(すぐに渡せるように準備しておく)
高価な教材は必要ありません。
100円ショップのファイルと、スマホで撮った写真をラミネート加工したもので十分スタートできます。
行動科学の視点:なぜ「伝える」が難しいのか
ことばでのコミュニケーションには、実は複雑な処理が必要です。
- 頭の中で「ほしい」という気持ちを認識する
- それを音声(ことば)に変換する
- 相手に届くように発声する
- 相手の反応を待つ・理解する
この一連の流れに、どこか一つでも摩擦があると、子どもは「伝えること」を諦めてしまいます。
PECSは、音声化のプロセスを省略し、「手渡す」という動作に置き換えることで、コミュニケーションの摩擦を大幅に減らします。
結果として、「伝えたら叶った」という成功体験が積み重なり、自発的なコミュニケーションが育つ土台ができます。
環境デザイン:摩擦を下げるためのチェックリスト
PECSがうまく機能するかどうかは、環境設計で大きく変わります。
物理的環境
- カードは子どもの目の高さ・手の届く位置にある
- カードブックはいつも同じ場所に置く(探す手間を減らす)
- 好きなものの実物はすぐ渡せる距離に準備されている
- カードは1枚ずつ剥がしやすい状態になっている
前後の動線
- 「カードを取る→渡す→もらえる」の流れが3秒以内で完結する
- 大人は子どもの視界に入る位置で待機している
- 渡されたカードはすぐに受け取り、すぐに応える
感覚刺激の調整
- 周囲の音・光の刺激が強すぎない(集中しやすい環境)
- カードの素材が触覚的に不快でない(ツルツル・ザラザラの好みを確認)
- 大人の表情・声のトーンが穏やかで安心できる
仕組み化テンプレ:どの場面でも応用できる枠組み
固定ルーティン(時間・流れのパターン化)
- おやつの時間、遊びの前など、毎日同じタイミングでPECSを使う機会を設定
- 「カードを渡す→もらえる」の流れを儀式化し、予測可能にする
可視化ツール
- タイマー:「あと○分でおやつ」を視覚的に示す
- 予告写真:次に使うカードを事前に見せておく
- チェックリスト:「カードを取る→渡す→ありがとう」の3ステップを絵で掲示
家庭内ロール分担
- 主担当者(例:母親):PECSの練習時間を担当
- サポート役(例:父親・きょうだい):日常場面でカードを使う機会を増やす
- 記録係:どのカードを使ったか、成功したかをメモ(週1回でOK)
よくある失敗 → 改善ポイント
❌NG:カードがバラバラに散らばっている
→ ⭕OK: 専用のブックに固定し、いつも同じ場所に置く
❌NG:子どもがカードを渡す前に、大人が先に察して渡してしまう
→ ⭕OK: 少し待つ時間を作り、「カードを渡したらもらえる」流れを体験させる
❌NG:好きなものが遠くにあり、すぐ渡せない
→ ⭕OK: 練習中はすぐ渡せる小分けパックを手元に用意しておく
❌NG:カードが多すぎて選べない
→ ⭕OK: 最初は2〜3枚だけにして、選択の負担を減らす
個々の特性による”設定値”調整
PECSは万能ではなく、子どもの特性に応じて環境パラメータを調整する必要があります。
感覚過敏がある場合
- カードの素材をソフトタイプに変える
- マジックテープの音が苦手なら、マグネット式を検討
- 明るすぎる絵カードは避け、シンプルな写真を使う
疲れやすい・集中が続かない場合
- 練習時間は1回2〜3分に短縮
- 1日のうちエネルギーが高い時間帯(午前中など)に実施
- 成功体験を最優先し、無理に回数を増やさない
こだわりが強い場合
- カードの順番や配置を固定する
- 新しいカードを追加するときは事前に見せて慣らす
- 「このカードじゃないとダメ」が強い場合、予備カードを複数用意しておく
5分スターター:今日すぐできる最小の一歩
1. 子どもの好きなもの3つを選ぶ
お菓子、おもちゃ、動画など、確実に喜ぶものをリストアップ
2. スマホで写真を撮る
実物を撮影し、画像を保存(後日プリント・ラミネート)
3. 今日のおやつ時に「写真を見せて渡す」練習
まだカードは不要。「これ、ほしい?」と写真を見せて、反応を観察する
4. カードを貼る場所を決める
冷蔵庫の横、リビングの棚など、毎日目にする場所を1箇所選ぶ
5. 家族でルールを共有する
「おやつの前はカードを渡してもらう」など、シンプルな約束を1つ決める
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PECSは、ことばの代わりではなく、”伝える力”を育てる入口です。
環境を整え、小さな成功体験を積み重ねることで、子どもの世界はゆっくりと広がっていきます。
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