結論
・「順番を待つ」「貸して・どうぞを言う」──こうした”やりとりの力”は、環境と仕組みで育つ。
・今日できることは、遊びの中で「待つ場所」や「順番カード」を用意すること。
・繰り返すうちに、子どもは”どう動けばいいか”を身体で覚えていきます。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?わかりやすく例えると
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、日常生活で必要な”人とのやりとりの力”を練習する取り組みです。
たとえるなら、サッカーの基礎練習のようなもの。
試合でいきなりうまくプレーできないように、「貸して」「ありがとう」「順番ね」といったやりとりも、練習の積み重ねで身についていきます。
SSTでは、以下のような力を段階的に育てます。
- 自分の気持ちを言葉や動作で伝える
- 相手の表情や様子に気づく
- ルールや順番を守る
- 困ったときに助けを求める
これらは「できて当たり前」と思われがちですが、実は子どもにとっては複雑な情報処理が必要な行動です。
なぜ”やりとり”は難しいのか?──行動科学の視点
子どもがやりとりに苦手さを感じる背景には、脳の情報処理の特性があります。
ワーキングメモリ(脳のメモ帳)の負荷
「貸して」と言うためには、以下を同時に処理する必要があります。
- 相手の様子を見る
- 自分の気持ちを整理する
- 言葉を選ぶ
- タイミングを見計らう
この「複数の情報を一度に扱う力」をワーキングメモリと呼びますが、幼児期はまだ容量が小さく、負荷がかかりやすい状態です。
見えないルールの不安
「順番」「貸し借り」といったやりとりには、暗黙のルールが含まれています。
「どのタイミングで声をかけるか」「断られたらどうするか」──こうした”見えない約束”が多いほど、行動のハードルは上がります。
環境と仕組みで”見える化”することが、子どもの安心感と行動の再現性につながります。
環境デザイン:やりとりが生まれる場づくり
SSTは特別な訓練ではなく、日常の環境を少し整えるだけで実践できます。
物理的環境のチェックリスト
- おもちゃは「1つずつ」手渡す形で配置(取り合いを減らす)
- 順番待ちの「立ち位置マーク」を床に貼る
- 「貸して」カードや絵カードを見える場所に置く
- タイマーで「あと○秒」を可視化する
動線と前後のつながり
- 「遊ぶ前」に絵カードで流れを確認する時間を設ける
- 遊び終わりには「ありがとう」を言う場面を意図的につくる
- 次の活動への切り替えに予告写真を使う
感覚刺激の調整
- 騒がしい場所では1対1のやりとりから始める
- 視覚情報が多すぎる場合は、遊びエリアを区切る
- 身体接触が苦手な子には「ハイタッチ」など非接触の挨拶も選択肢に
仕組み化テンプレ:日常で使える3つの枠組み
① 固定ルーティン(時間・流れのパターン化)
同じ場面で、同じ流れを繰り返すことで「次にどうするか」が予測しやすくなります。
- おやつの時間は必ず「いただきます」→「ごちそうさま」
- 公園では「順番ね」→タイマー→「どうぞ」
- 帰宅後は「ただいま」→手洗い→「できたよ」
② 可視化ツール
目で見てわかるツールは、ワーキングメモリの負荷を下げます。
- 順番カード:「1番・2番・3番」と視覚的に示す
- タイマー:「あと30秒」を音と視覚で伝える
- 絵カード:「かして」「どうぞ」「まって」などのイラスト
③ 家庭内ロール分担
誰が何をするかを決めておくと、子どもも見通しを持ちやすくなります。
- お父さん:公園での順番ルールの声かけ
- お母さん:帰宅後の「ただいま」の受け答え
- きょうだい:おもちゃの貸し借りのモデル役
よくある失敗 → 改善ポイント
NG:「ちゃんと貸してって言いなさい」と毎回口頭で促す
→ OK:「貸して」カードを手渡し、カードを見せる練習にする
言葉だけだと忘れやすく、プレッシャーにもなります。カードがあれば「これを見せればいい」と行動が明確に。
NG:複数の子どもが同時に遊ぶ場で練習を始める
→ OK:まずは大人と1対1で「順番」を体験する
刺激が多い環境では、やりとりのステップが見えにくくなります。シンプルな場面から成功体験を積み重ねましょう。
NG:「できなかった」ことを指摘し続ける
→ OK:「カードを渡せた」など小さな行動を記録する
できた行動を可視化することで、子ども自身が成長を実感でき、次への意欲につながります。
個々の特性による”設定値”調整
子どもの特性に応じて、環境のパラメータを調整することが大切です。
感覚過敏がある場合
- 人が多い場所では、短時間・少人数から始める
- 声のトーンや音量を調整(大声での促しは避ける)
- 身体接触を伴う挨拶(握手など)は無理強いしない
疲れやすい・集中が続きにくい場合
- 練習時間は5〜10分程度に区切る
- 活動の前後に休憩時間を設ける
- 「次は何をするか」を事前に伝えておく
こだわりが強い場合
- 「いつもの流れ」を崩さず、その中でやりとりを組み込む
- 新しいルールは絵や写真で事前に説明する
- 「変更がある」ときは予告期間を長めに取る
5分スターター:今日からできる最小の一歩
- 順番カードを1枚つくる
「1」「2」と書いた紙を2枚用意し、おもちゃの横に置く。 - 「貸して」の絵カードを描く
手を差し出すイラストと「かして」の文字を書いた紙を1枚。 - タイマーを1回使ってみる
「30秒交代ね」とタイマーをセットし、音が鳴ったら「どうぞ」の練習。 - 「ありがとう」を言う場面を1つ決める
おやつの後、おもちゃを片付けた後など、決まったタイミングで。 - できた行動をメモする
「カードを渡せた」「タイマーを待てた」など、小さな成功を記録。
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